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丸山優太郎 日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している 土地活用を検討する際、「どのような建物を建てられるか」という点は大切なポイントです。建物を建てる際に重要になる基準が「建蔽率(建ぺい率)」と「容積率」。都市計画法にもとづく用途地域は、用途の混在を防ぐことを目的としますが、複数地域にまたがる場合は少し複雑です。用途地域は13種類あり、4つの高さ制限もあります。 ここでは、土地活用における用途地域の建築制限、建蔽率(建ぺい率)・容積率、高さ制限などを解説しつつ建蔽率(建ぺい率)と容積率の計算方法も紹介します。 1. 用途地域とは用途地域とは、建築できる建物の種類や用途・制限のルールをあらかじめ定めている土地のことをいいます。各自治体が都市計画法にもとづいて定める地域区分です。 ただし、すべての土地に定められているわけではありません。市街化を抑えようとする市街化調整区域には設定されません。用途地域は都市計画図に掲載されており、役所や自治体によってはホームページで見ることができます。 土地が一つの用途地域内にあれば、建蔽率(建ぺい率)や容積率などの計算、建てられる建物の種類などの判断は簡単です。 2.建蔽率(建ぺい率)と容積率とは建物を建築する場合、土地ごとに建蔽率(建ぺい率)と容積率が定められています。建築に関する基本的な用語ですので意味を確認しておきましょう。 2-1.建蔽率(建ぺい率)建蔽率(建ぺい率)とは、敷地面積に占める建築面積の割合のことです。用途地域によって建蔽率(建ぺい率)の上限が決まっているため、同じ広さの土地でも建築可能面積が異なる場合があります。例えば100平方メートルの土地があった場合、すべての敷地に建築物を建てられるわけではなく建蔽率(建ぺい率)が60%の用途地域あれば建築面積60平方メートル以上の建築物を建てることはできません。 建蔽率(建ぺい率)が設定されているのは、防火対策や住環境の配慮が目的とされているからです。例えば敷地面積ぎりぎりまで住宅を建てた場合、風通しが悪く火災時に隣家へ火が燃え移りやすくなったり景観が悪くなったりします。そのため、ある程度敷地にゆとりを持たせて建物を建てるように建築基準法で建蔽率(建ぺい率)が定められているのです。 【建蔽率(建ぺい率)の計算方法】
(計算例)
この場合は、敷地面積の半分を使って建物を建てることになります。建蔽率(建ぺい率)が50%以上の土地であれば建築可能です。 2-2.容積率容積率とは、敷地面積に対する延床面積の割合のことです。延床面積は、3階建てなら「1階床面積+2階床面積+3階床面積」というようにすべての床面積を足して計算します。延床面積には、ベランダやバルコニー、外階段などは含めません。建蔽率(建ぺい率)が平面的な広さに対する上限となるのに対して容積率は立体的な空間に対する上限といえるでしょう。 【容積率の計算方法】
(計算例)
この場合は、敷地面積と同じ延床面積の建物を建てるので容積率100%以上の土地であれば建築可能です。また1階床面積が60平方メートルの建物を建てるには、建蔽率(建ぺい率)60%以上の土地でないと建築できません。 3.建蔽率(建ぺい率)と容積率は用途地域によって上限が変わる建蔽率(建ぺい率)と容積率は、以下の表のように用途地域によって定められています。用途地域の系統を大きく分けると「住居地域」「商業地域」「工業地域」の3つです。もし地域に関係なく自由に建築してしまうと、住環境が損なわれさまざまな不都合が生じかねません。そのため細分化した13種類の用途地域を定めることで都市としての環境保護を行っているのです。 自分の土地の建蔽率(建ぺい率)と容積率が分からない場合は、住宅の建築を依頼するハウスメーカーや管轄の自治体に問い合わせたりすれば教えてもらえます。
4.建蔽率(建ぺい率)と容積率の上限は条件次第では緩和される建蔽率(建ぺい率)と容積率は、建物や土地の条件によって既定の比率より高くなる場合があります。それぞれの条件を確認しておきましょう。 4-1.建蔽率(建ぺい率)が緩和される場合
上表のケースに当てはまると建蔽率(建ぺい率)が緩和されます。A・Bいずれかに当てはまる場合は、建蔽率(建ぺい率)が+10%、両方当てはまる場合は+20%となります。 4-2.容積率が緩和される場合
上表のケースに当てはまると容積率が緩和されます。Aのケースは、床面積の合計3分の1までBのケースは5分の1まで容積率の計算から除くことが可能です。またCのケースでは、屋根裏収納の床面積が、同階の床面積の2分の1未満であれば除くことができます。 5.【ケース別】建蔽率(建ぺい率)と容積率の具体例建蔽率(建ぺい率)と容積率の具体例を4つのケースに分けて敷地に対してどれくらいの広さの建物を建てられるのかを計算してみましょう。 5-1.一般的な住宅のケース(計算例)
延床面積の上限が100平方メートルで2階建ての住宅を建てる場合は、1階50平方メートル、2階50平方メートルなどと割り振って設計することになります。建蔽率(建ぺい率)50%、容積率100%という数字は、一般的な広さの土地なら2階建てまでの住宅が十分に建築可能な水準です。 5-2.容積率が低い土地のケース(計算例)
2階建てで1階を50平方メートルにした場合、2階は30平方メートルとなります。容積率が低い土地の場合は、総2階にするのが難しいケースもあるでしょう。 5-3.容積率が高い土地のケース(計算例)
建築面積は、やや狭いものの容積率が150%と高いため、例えば1階50平方メートル+2階50平方メートル+3階50平方メートルの建物を建てることが可能です。全体では、延床面積の広い住宅建築ができます。 5-4.建蔽率(建ぺい率)が高い土地のケース(計算例)
建蔽率(建ぺい率)が高い土地だと2階建てで50平方メートル以上の建築面積で建てる場合、以下のようなパターンから選ぶことができます。
建蔽率(建ぺい率)が高いと1階部分を広めにとってゆとりのあるリビングルームにできるのがメリットです。 6.建蔽率(建ぺい率)と容積率にまつわる注意点建蔽率(建ぺい率)と容積率にまつわることで問題になるケースがいくつかあります。建築制限だけでなく住宅ローンに影響を与える場合があるため、押さえておきましょう。 6-1.建蔽率(建ぺい率)と容積率以外にも建築制限あり建蔽率(建ぺい率)と容積率以外にも以下の4つの高さ規制があります。(詳細は、9章で後述)
6-2.建蔽率(建ぺい率)と容積率をオーバーすると住宅ローンを組めない建蔽率(建ぺい率)と容積率をオーバーする物件の場合、住宅ローンが組めない恐れがあります。なぜなら建築基準法に反した物件は、金融機関の審査で担保価値がないか低いと判断される可能性があるからです。また、建築時に適合していても建築後の法改正でオーバーしている物件の場合は「不適格建物」として売却する際に価格が下がってしまう可能性があります。 中古物件を購入する場合は、十分に注意しましょう。 7.用途地域にまたがる場合土地のなかには用途地域にまたがる立地もあるでしょう。用途地域にまたがる場合にどのような制限があるのかを確認しておきましょう。 7-1.建築制限計画用地が用途地域にまたがっている場合は、過半を占める地域が建築制限の適用を受けます。例えば、「第一種低層住居専用地域」「第二種低層住居専用地域」にまたがっているケースでは、まずそれぞれの地域の敷地面積を算出します。敷地面積が220平方メートルで、第一種低層住居専用地域が140平方メートル、第二種低層住居専用地域が80平方メートルの場合は過半を占める第一種低層住居専用地域の建物用途の制限が適用されます。 7-2. 建蔽率(建ぺい率)・容積率は加重平均土地のうち建物を建てられる面積の上限である「建蔽率(建ぺい率)」と建物の総床面積の上限である「容積率」は、それぞれの用途地域で土地面積に応じて別々に計算し平均します。これを「加重平均」といい、面積ベースで計算すると以下のようになります。 例えば、500平方メートルの土地で、そのうち300平方メートルは建蔽率(建ぺい率)60%、容積率120%の第一種住居地域内に、残りの200平方メートルは建蔽率(建ぺい率)80%、容積率300%の近隣商業地域内にあるとします。 この土地における最大の建築面積の式 この土地における建蔽率(建ぺい率)の式 最大の延床面積の式 という風に計算されます。 7-3.建物全体が片方の地域に収まっていたらでは、第一種住居地域と第二種住居地域にまたがっている土地で、片方の地域に建物全体が収まっている場合はどうなるのでしょうか。たとえ建物が第二種住居地域にすべて収まっていたとしても、過半を占める第一種住居地域の建物用途の制限が採用されます。したがって、第一種住居地域に建てられない建物を第二種住居地域に建てることはできません。 7-4.建築基準法での取り扱い建築基準法第91条では次のように定められています。 敷地の半分以上を占める部分が、属する地域や区域の制限を受けることになります。 8. 用途地域は13種類用途地域は、全部で13種類あり建てられる建物の種類はそれぞれに異なります。大きく分けると「住居地域」「商業地域」「工業地域」の3つの区分があります。では、13種類の特徴や制限、建てられる建築物の種類などを見てみましょう。 8-1.住居地域8種類住居地域には以下の8つの種類があります。 ・第一種低層住居専用地域 ・第二種低層住居専用地域 ・第一種中高層住居専用地域 ・第二種中高層住居専用地域 ・第一種住居地域 ・第二種住居地域 ・田園住居地域 ・準住居地域 8-2.商業地域2種類商業地域には以下の2つの種類があります。 ・近隣商業地域 ・商業地域 8-3.工業地域3種類工業地域には以下の3つの種類があります。 ・準工業地域 ・工業地域 ・工業専用地域 関連記事
9. 4つの高さ制限建物の高さには「絶対高さの制限」や「道路斜線制限」、自治体によっては「日影規制」などさまざまな規制によって上限を設けられています。2つの地域にまたがる場合、それぞれの地域ごとに適用されます。 例えば、屋根の高さが2段になっている住宅を見かけることはないでしょうか。このような形状になったのは、土地が2つの用途地域にまたがっているという可能性もあります。規制や制限の種類は以下の4つです。 9-1.斜線制限斜線制限は、通風や採光等を確保し良好な環境を保つために、建築物の各部分に設けられている高さに関する制限です。「道路斜線制限」「隣地斜線制限」「北側斜線制限」の3つの種類があります。斜線制限は建築基準法第56条で定められており、制限される高さの算出方法は用途地域によって異なります。 例えば、道路斜線制限の場合、住居系地域については敷地が接する道路の反対側の境界線から1メートルにつき1.25メートル、その他の用途地域については1メートルにつき1.5メートル上がる斜線の内側に建築物を収めなければならないと規定されています。 9-2.日影規制日影規制は、中高層建築物によってできる日影が近隣の敷地に一定時間かからないようにすることにより、日照を確保するための制限です。日影規制は建築物の高さ制限があり、区域・建物によって下表のように定められています。
9-3.絶対高さ制限絶対高さ制限とは、上表の用途地域のうち「第一種低層住居専用地域」「第二種低層住居専用地域」「田園住居地域」のみに適用される高さ制限です。低層住居の環境保護や日照・通風確保を目的とした制限です。 原則として、10メートルか12メートルのうち都市計画で規定されている高さの限度を超えることはできません。建物の外壁または代用になる柱の面と敷地の境界線の間に都市計画で定められた後退距離を確保する必要があります。後退距離は1メートルまたは1.5メートルが限度です。 9-4.高度地区・高度利用地区高度地区・高度利用地区について都市計画法では以下のように定めています。 「高度地区は、用途地域内において市街地の環境を維持し、又は土地利用の増進を図るため、建築物の高さの最高限度又は最低限度を定める地区とする」(都市計画法第9条18項) 「高度利用地区は、用途地域内の市街地における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図るため、建築物の容積率の最高限度及び最低限度、建築物の建蔽率の最高限度、建築物の建築面積の最低限度並びに壁面の制限を定める地区とする」(都市計画法第9条第19項) 両地区の違いは、高度地区が建築物の高さの最高限度又は最低限度のみを定める地区であるのに対し、高度利用地区は「建築物の容積率の最高限度及び最低限度」「建築物の建蔽率の最高限度」「建築物の建築面積の最低限度」「壁面の制限」の4つを定める地区であることです。 10. 防火・準防火規制の判断基準用途地域以外の都市計画法にもとづく規制として、防火地域と準防火地域が定められることがあります。対象となるのは主に市街地です。これらの地域では、建物の階数や面積に応じて一定の耐火性能を持った構造にしなければなりません。 例えば防火地域では、3階建て以上の建物は(鉄骨)鉄筋コンクリート造や耐火被覆をした鉄骨造などの耐火建築物にする必要があります。同じ3階建てでも準防火地域で延床面積が1,500平方メートル以下であれば耐火被覆をした木造のような準耐火建築物でも認められます。 防火地域に関する規制は、土地ではなく建物ごとに判断します。2つの地域にまたがっている場合は、より厳しいほうが適用されます。しかし、土地の一部が防火地域であっても建物のすべてが準防火地域内にあれば、準防火地域の要件が適用されます。 11. 建物のプランは不動産会社とよく相談して決めるここまで建蔽率(建ぺい率)や容積率、用途地域にまたがる土地の建築制限について詳しく見てみました。同じ広さの土地でも、地域ごとに定められた建蔽率(建ぺい率)や容積率によって建てられる延べ床面積は異なります。その建蔽率(建ぺい率)や容積率を決めるのが用途地域です。建物の大きさと建築部分の面積の上限は、各用途地域に応じた建蔽率(建ぺい率)や容積率で計算することが必要です。 高さ制限は、各用途地域に対して規制を受け、防火地域・準防火地域は土地ではなく建物の位置によって判断します。このように建物の建築に関する規制は複雑です。13種類の用途地域ごとの規制や、建築基準法や都市計画法による各種制限をすべて把握することは困難でしょう。例外や判断に迷うケースが出ることが考えられます。 土地開発で一棟マンションの建築を考えているオーナーは、デベロッパーを兼ねた不動産会社に相談するとよいでしょう。不動産会社には法務関係の専門家がおり、用途地域における最適な物件の形を提案してくれるはずです。開発への第一歩として不動会社に気軽に相談してみてはいかがでしょうか。 12.用途地域や建蔽率(建ぺい率)に関するよくある質問最後に用途地域や建蔽率(建ぺい率)に関するよくある質問をまとめておきます。 12-1.Q:用途地域とは?用途地域とは、建築できる建物の種類や用途・制限のルールをあらかじめ定めている土地のことです。市街化調整区域には、設定されません。用途地域は、以下のサイトで全国のデータを調べることができます。 参考:MapExpert「用途地域マップ」 Q:建蔽率(建ぺい率)と容積率とは?建蔽率(建ぺい率)とは敷地面積に占める建築面積の割合、容積率とは敷地面積に対する延床面積の割合のことです。土地に建物を建築する際は、両方の制限を受けます。建蔽率(建ぺい率)と容積率は、どちらも用途地域ごとに制限の割合(%)が決まっています。 Q:建蔽率(建ぺい率)はどうやって調べるのか?建蔽率(建ぺい率)や容積率は、住宅を建てるならハウスメーカー、土地開発からマンションやビルを建てるならデベロッパーを兼ねた不動産会社に聞くと教えてもらえます。詳細な土地の条件まで調べてくれるので便利です。また土地を管轄する自治体の建築課や都市計画課などに問い合わせて確認することもできます。 「予算を立てるため自分で調べたい」という場合は、以下のサイトで全国の都市計画図を参照することが可能です。地図上に200分の60とある場合は、建蔽率(建ぺい率)60%、容積率200%の地域となります。 参考:株式会社テクノアート「全国都市計画図検索」 Q:建蔽率(建ぺい率)をオーバーするとどうなる?建蔽率(建ぺい率)と容積率をオーバーすると住宅ローンを組めなくなる可能性が高くなります。また基準をオーバーした物件は「不適格建物」となり不動産価値が下がる点も忘れてはいけません。売却時に安く売らなければならない恐れがあります。古い基準で建てられた中古物件を購入する場合は、注意したほうがよいでしょう。 Q:用途地域にまたがる土地の場合にどのような制限があるのか?敷地面積が220平方メートルで、第一種低層住居専用地域が140平方メートル、第二種低層住居専用地域が80平方メートルの場合は過半を占める第一種低層住居専用地域の建物用途の制限が適用されます。 Q:用途地域は全部で何種類あるのか?大別すると「住居地域(8種類)」「商業地域(2種類)」「工業地域(3種類)」の3つに分かれ全部で13種類です。建てられる建物の種類は、それぞれに異なり用途地域ごとに建蔽率(建ぺい率)と容積率が定められています。 【あなたにオススメ】 |